東京地方裁判所 昭和32年(ワ)2639号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は昭和三一年一二月三一日被告と、(一)原告は被告に対し金一一五万円を貸与する。但し内金五〇万円は契約と同時に、残金六五万円は被告が次項に定める事項の履行を完了すると同時に交付する。(二)被告は昭和三二年一月七日までに(イ)別紙物件目録記載の物件につき原告の為担保権を設定する。(ロ)本堂正面前の倉庫及び石材加工所の建物を撤去し宅地に地自変換の手続を了した上原告の管理に移すと共に売却処分に関する総ての代理権限を原告に付与し、その処分を委任する。(ハ)鈴木和子に対する債務を弁済し仮登記を抹消する。
(三)被告は第一項により借受けた金員を昭和三二年二月末日までに弁済する。期限後は日歩二五銭の遅延損害金を併せ支払う。(四)被告が第二項に定める事項を完全に履行しないときは違約金として昭和三二年一月一二日までに金一〇〇万円を原告に支払う。右期限に履行しないときは一日当り金五〇〇〇円の遅延損害金を支払う旨を約し、同日五〇万円を被告に交付した。しかるに被告は昭和三二年一月七日を経過するも右第二項に定める債務の履行をしない。よつて原告は被告に対し、右貸付金五〇万円及び違約金一〇〇万円およびこれらに対する利息制限法所定の範囲内における約定遅延損害金として年三割の割合による金員の支払を求める旨主張した。
被告は五〇万円借受けの事実のみをみとめその他の事実は否認したが、仮定抗弁として原告主張の巨額な違約金及び遅延損害金の特約は被告代表者の軽卒無経験に乗じた暴利行為で公序良俗に違反し、無効であると抗争した。(他に錯誤による無効、強迫による取消の抗弁があるが省略する)判決は被告の抗弁を採用し原告の請求のうち本来の貸付金五〇万円とこれに対する年三割の損害金の請求のみをみとめたが、その他の請求を棄却し、つぎのとおり説明している。
「そこで被告の本件契約中違約金及び遅延損害金の定めは公序良俗に違反するから無効であるとの主張について判断するのに、前記認定の契約の第二項所定事項処理のため与えられた期間である昭和三二年一月一日ないし同月七日の間は俗に松の内と呼ばれその間一日ないし三日は銀行官庁は休日であり六日は日曜日であつたことは当裁判所に顕著な事実であることから考えれば、約定の期間中に本堂正面前の倉庫及び石材加工所の建物を撤去し、同地の地目変換及び一五筆の宅地上に抵当権の設定登記手続をなし、訴外鈴木の債務を弁済しその仮登記抹消の登記の手続をすること、しかも本件土地はその所有者である被告が寺であるため担保権設定のための登記をするには宗派本山の代表役員の承認をもらえなければならないことは不可能でないにしても著しく困難であることは否むことはできない。そして被告のこの債務の不履行に対する違約金は金一〇〇万円であり、これを五日間に支払わぬときは右期限の翌日から一日につき金五〇〇〇円(年三六割)の損害金を支払わねばならぬというのであつて、民法第四二〇条所定違約罰の自由の原則を考慮に入れてもなお苛酷であるといわなければならない。
しかも利息制限法によれば金銭を目的とする消費貸借の違約金は損害賠償の予定とみなされ同法第四条によつて最高限の利息の二倍をこえるものは無効とされているにかかわらず、本件契約における金一〇〇万円の違約金は金五〇万円の消費貸借金の担保を確保するため(右契約第二項所定の事項を被告が履行したときは更に金六五万円を原告から被告に貸与する約があるが、履行しなければ金六五万円は貸与しないのであるから違約金はどこまでも金五〇万円の貸金を確保するものとみる外はない)の被告の債務不履行の違約罰としては不当に過大であるというべきである。
しかも、――中略――にすれば訴外伊藤から年内に是非金五〇万円だけでも貸してやつてくれと懇請されており、その結果大晦日も押しつまつて前記のように契約が締結されたことから見れば原告が右某木(被告代表者)の窮境に乗じた点は否定できない。このように債務者の窮境に乗じ履行の公算が極めて少い債務を前提としてその不履行に対して過大な違約罰を約定した本件契約第四項は、公序良俗に反する事項を目的とする意思表示というべきであつて無効である。」